ハイリハイリフレ背後霊過去ログ51〜60




60.漫画と電気について 2003.03.21

漫画における電気の描かれ方は間違いが多く、電気好きとしては嘆かわしい限りだ。たとえば劇画「プロレス・スーパースター列伝」(梶原一騎・原田久仁信)の、タイガーマスク編である。タイガーマスク(初代)がメキシコで修行していたときのエピソードを見てみよう。

メキシコの荒野に立つ塔の屋上に、おそるべきレスラー養成所がある。そこにはさまざまな練習道具がある。たとえばガラスがびっしり生えたサンドバッグ。正確にキックをしないと血まみれになる。また、棒にとげが生えているバーベル。胸におろすと突き刺さる。さらに、鉄板でできたリング。これには、電気が通してある。投げられてすぐに起き上がらないと感電して泣きわめくことになる。この、まさに「虎の穴」のような設備で、メキシコの一流レスラーたちは鍛えぬかれているのだ。

鉄板と人体と、どっちのほうが電気が流れやすいか?鉄板だ。ならその上に裸で寝たところで、電気は鉄板の中を通るはずである。もしこれで感電するなら、電線の鳥も感電して落ちるはずではないか。

昔のロボットアニメでよく出てきた、「電撃ビリビリでもがき苦しむ主人公」も怪しいと思う。車に落雷しても、車体を通って地面に電気が流れるので中の人は大丈夫である。ロボットも車同様、おそらく金属製だ。だから、同じように中の人は大丈夫なはずなのである。

【字数指定なし】

59.うんこビル 2003.03.20

バブルの時代、変なビルを建てるのがはやったことがあった。隅田川の近くのアサヒビールのビルもその一つで、屋上に金色で雲形のオブジェが載っているのが特徴である。外国の建築家が何かの意味をこめてデザインしたらしいが、口さがない人々はこれを「うんこビル」と呼ぶ。

平成10年の三月ごろ、私は台湾に行った。その時、「早安!!日本」という漫画を買ってきた。日本に留学していた女の人が描いた四コマ(台湾では「四格」というらしい)である。しばらく住んでいただけあって、日本の描写は非常にリアルだ。ビデオ安売り王、留学生のアルバイトの話やイラン人の偽造テレホンカードの話など、なにげなく濃い話が出てくる。

その中に、東京観光にからんで「うんこビル」の話もあった。

「看起来好像大便!」(うんこそっくり!)

そのようなわけで、台湾人の目から見てもあれはうんこに似ているらしいことが確認されたのだった。

【字数指定なし】

【参考】資料1(表紙)資料2(台詞)

58.自分はナメクジや虫なみの人間です 2003.03.19

「標準原色図鑑全集14 菌類 きのこ・かび」(保育社、昭和45年初版52年8刷)という本がある。イルカマニアのF君が古本屋で100円で手に入れてきたものだ。ただの図鑑だと思って見ていたら大間違いで、著者のカビ・キノコに対する熱いパッションの炸裂するすばらしい本だった。図解と個々の菌類についての解説は、まあ普通である。しかし、巻末の文章は違う。

のっけからこの調子である。

I.菌類は植物か?

むかしから生物を植物と動物の二つに分けてきた。つまり生物=植物+動物である。(中略)科学が進み、いろいろなことがわかってくると、この幾千年もつづいてきた考え方に疑問を持つ人がだんだん多くなってきた。この疑問をいだかせる最大の根拠は、菌類には植物の代表的な特性である葉緑素がないということである。(中略)一方、植物にもナンバンギセルとかギンリョウソウとか、そのほか少なからぬ無葉緑素のものがある。これらの植物は植物の中では例外的なものであり、 いわば片輪者である。しかし、菌類は決して片輪者でもなければ、例外的な生物でもない。

著者は毒キノコにあたって死ぬ人が絶えないことについて、非常に憤慨している。

III.恐るべき迷信

キノコ中毒をなくすためにはまず迷信をすてねばならない。

茎が縦にさける:いちばん罪が深いのは”茎が縦にさけるキノコは食べられる”という迷信である。(中略)

ナスと煮れば中毒しない:とんでもない誤りである。キノコの毒成分を中和するような妙薬は 一つもない。なぜならばキノコの毒成分はひといろやふたいろではなく、化学的に多種多様であるから。(中略)

その他:”ナメクジや虫が食べているようなキノコは食べられる”などという人があるが、その人は ”自分はナメクジや虫なみの人間です”といっているようなものである。

(中略)あるキノコが食べられるか毒か、その毒性が致命的であるかどうかなどという知識は、実際に人間がたべてみないとわからない。また中毒事件を起こしやすいかそうでないかということも、多年の経験によらなければわからない。われわれが今もっている毒キノコについての知識は、このように幾千、幾万人をこえる先輩や祖先が命がけで体験してえた貴重な知識である。この知識をわれわれはぜったいにむだにしてはならないのであるが、実際は少しもそれを生かしていない。そして毎年、同じキノコで同じ中毒をくりかえしているのである。 科学時代の非科学性といえよう。

どんどん著者がヒートアップしていく様がよくでている、味のある文章である。ウルトラQに出てくる白ひげの博士みたいでかっこいい。

そのためには、各地にキノコを学ぶ人がふえて、キノコ中毒の原因を確かめることができるようになれば、これまで幾千年もかけて行われた貴重な人体実験でも生かしえなかった問題を、急速に解決することができるようになるはずである。それは日本人のしあわせに通じる課題でもある。

そういえば「非科学的」とか「迷信」とかいう言葉をさいきん使わなくなったような気がする。無知な大衆を啓蒙するという発想は、もうはやらないらしい。

「この人工衛星が飛ぶ世の中に、つまらない迷信だね。まったく非科学的だ!」

「冥土の土産に教えてやろう」「お釈迦様でも気がつくまい」と共に、一度は使ってみたい台詞である。

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57.かべ土などをかじる 2003.03.18

集英社の「なぜなぜ理科学習漫画9 人体の神秘」(1963年初版、1970年に21版)によると、

日本人の半分ぐらいは、おなかの中にカイチュウがいるというからね。

と、いうことである。また、

ジュウニシチョウチュウが寄生していると、

食欲がなくなり、勉強もできなくなる。

かべ土などをかじる。

と、いうことである。ジュウニシチョウチュウはカイチュウよりはマイナーだとは思うが、飼っている人は少なくなかったようだ。これらから総合すると当時の日本には青い顔で壁土をかじる人がそこら中にいたようである。

また、この本には

ばかの大食い 白米(でんぷん)をいくら食べても、頭はよくならない。かえって胃腸がつかれ、脳の血のめぐりはわるくなる。パン食の方がよい。

という、昨今見なくなった味のある記述もある。

人はなぜ壁土を食べるのだろうか?

  1. 寄生虫がなんらかの行動をし、その作用を受けると壁土がうまそうに見える。

  2. 壁土の中に、寄生虫の卵の素が入っている。そのため、もともと壁土を食べる趣味のある人にそれらが寄生する。

  3. 本当は壁土はうまいのだが、みんなそのことを知らず、たまに食べる人がいると病気扱いした。昔は寄生虫を持つ人が多かったので、そういう人の中にも高い確率で存在した。そのため、寄生虫が人に壁土を食わせたのだと短絡した。

  4. 寄生虫と、壁土を食べるという行動には、因果関係はない。

一体どれなのだろうか?

【字数指定なし】

56.「すごい人」 2003.03.17

友人が話していたことである。

彼が昔美術の専門学校に行っていた頃、先生に「すごい人」がいたのだそうである。何がどう「すごい」のかは知らないが、とにかく「すごい」のだそうだ。その「すごい人」が神のようにあがめる人がいて、これはもう輪をかけて「すごい人」らしい。普段はそれこそ菩薩のように優しい顔の婆さんなのだが、その人が怒ると「とんでもないこと」が起きるのだという。だから婆さんはいつも心を平静に保つよう心がけているのだが、ある日飼い犬が車にひかれてしまった時、さすがに怒ったらしい。すると次の日、なんとその車の運転手が「死んでしまった」という!

「…また、やってしまった…!」

と呟いたかどうかは知らない。

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55.また外に出ていけるんでしょうか 2003.03.16

以下は、神戸大学に通っていた友人の話である。神戸大学は山の上にあり、通学路からは海がよく見えた。以下は、本人の書いたものの転載である。

交差点で男に話し掛けられた。

「あのう、ちょっとお聞きしたいんですけど」

「はい」

「あの海の水がなくなると、また外に出ていけるんでしょうか?」

遠くに見える大阪湾を指して言った。

「えっ?」

「ですから、あの海の水が無くなると、また外へ出て行けるんでしょうか」

私が何も答えられずにいると、男は諦めたように去っていった。

私は、またというところが気に入っている。

【字数指定なし】

54.ジャマイカからの手紙 2003.03.14

私がまだ高校生の頃のことである。友人のオガサワラという男が、うちにこんな変な手紙が来た、と言って持ってきた。ジャマイカからの手紙で、彼の父親(大学の教授をしているらしい)宛に書かれたものだった。しかし「こんな人は知らない」と教授は言うらしいのである。私も読んだのだが、読めば読むほど怪しげな手紙である。しかし、なんともいえない味のある手紙なのである。

原文は便せん4枚にぎっしり、ペンを使って書かれている。「私たちは」なのにsが付いたり、やたらと大文字を使ったりするのは原文のままである。

Jamaica W.I.
4.10.91
Dearesteemed Prof.Ogasawara,
Please forgive me for the liberty that I
take in writing to you in a personal letter, not having the honour of
knowing you in person, but I do so because of the pressure of despair of
my terrible circumstances here in a strange Country and so I ask please
for your kind attention and interest also foregive me for my not perfect
English Language.
My name is Sra.Maritza Morares Salazar(Mrs) I am 29 years old and
the Mother of a small Child,Raquel. She is 4 years old. We are exiles
from El Salvador intransit here in Jamaica.My husband was killed by the
Millitary in my Country, and my brother Dr.Carlos Alberto Morares is a
disappeared (missing person) for sometime now. Your name and adress I
see in his personal diary that I get my possesion, and so I deside to
write to you.

「エルサルバドルで夫は殺され、弟も行方不明になってしまった。わたし(29歳女)と娘(4歳)はジャマイカに亡命した。あなたの名前と住所は、その弟の残した日記帳にあったものだ」

いきなりドラマチックな出だしである。

Prof.Ogasawara, we are living temporary here at the home of a local
family until it i possible for us to Continue our travel to Europe.
They are very kind to us, but they are also very poor and we are a much
heavy burden on their little resources. I try to help in every possible
Way, but is not much I can do, becauce our states as exiles intransit
prohibited me from seeking work for emproyment by the Authorities.
Many time we are hungry but I never, never lose faith in God. May be
one day will be able to return to our beloved suffering nation but for
now we must wait, as it is not safe for us to return to El Salnador for
now.
The church here gave to us some assistance like food and clothes,
but cannot help me furthe with funds for our travel. I also had to sell
the few items of value that I bring with me to buy food and Medicines
for my Raquelita when she got sick recently, so I have nothing now.

「私たちがヨーロッパに行けるときまでジャマイカで世話になっているが、彼らはとても貧しい。私もなんとかしたいが、亡命者ではどうにもならない。といってエルサルバドルに戻るわけにもいかない」

"Many time we are hungry but I never, never"が泣かせる。「娘の病気のためにお金がないんです」

Prof.Ogasawara, my desire is to go to Spain where I can wok and
raise educate my child,and start a new life in freedom and dignity, as I
am a qualified Radiology Technician.
Many time I feel that I may become an insane with the anxiety and
dispair of our situation. Also there are many men who want to take
advantage of my distress to use me very immoral for sexal purposes, but
I am a decent woman of dignity and honest, so I cannot accept their
sinful propositions.
Prof.Ogasawara, it is with true sincerity honesty and respect that I
deside to write to you this personal letter in much reluctant shame and
agony, to improve of you a very special great favour.We already have the
necessary visas to travel to Spain, but the funds to pay for our travel
tickets is not complete. I only have a part of the funds, and the
difference needed to make up the total is exactly $285-(Two hundred
eighty five dollars).

「スペインで放射線技師として働くために、旅行代金として285ドル(にひゃくはちじゅうごどる)援助してください」

"use me very immoral for sexal purposes,"のあたり、まさに貞女の鑑といえよう。

I asking of you as a personal favour, if you Could facilitate to me,
but strictly as a loan, this difference needed to make up our travel
passages, and I expect that aproximately 3 or 4 Monthes after we arrive
in Spain and I start working, I will return send back the funds Complete
to you. Please I ask you to understand I need not as Charity, only
temporary assistance.
Prof.Ogasawara I trust that it is not too much difficult or
inconvenient for you to help us for assistance with our travel to Spain
PLEASE I implove that you here my personal call that I make to you
with much respect and humility. May God bless you and your family for
your kindness and Solidarity to us at this time of great need that is so
vital and important for our future life.
The funds please send directs to my name Sra. Maritza Morales
Salazar (Mrs) in Cheque or Cash, by registered Air-Mail to this adress
to
SRA.MARITZA MORALES SALAZAR
(住所)
MANCHESTER JAMAICA(WEST INDIES)
This is the adress of the family where I staying along with my little
girl. Kindly send your answer directs to me so, and you can write to me
in English or in Spanish. I shall be anxiously waiting for your Kind
answer to my letter, and I remain, with affection and respect,
Sincerely Yours
Maritza Morales Salazar

「くれとは言わない、貸してくれればいいのだ。私たちの未来はあなたの返事如何にかかっているということで よろしく。支払いは小切手か現金、手紙は英語かスペイン語で。では、待ってます」

資金援助を願いながら、日本語を使う気はなし。この後、さらにだめ押しが。

P.D. Prof.Ogasawara, as our legal status as exiles intransit is not
clear wit the Authorities, I am asking that you treat my personal
request to you as Confidential, to avoid me problems. When we arrive I
will Contact you again to give you my new adress, and inform you of my
progress. Thanks in advance for your Kindness, and May God bless you.

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オガサワラ氏は悩んだ。285ドルといえば約3万円である。払えないことはないが、「行方不明の兄(弟?)の残した日記にあなたの住所が」など、怪しいところが多すぎる。疑惑を一層深めたのが、他の人の所にも同じものが来た、という事実だった。何かの会合である人とその話になり、「それだったら、うちにも同じようなものが」ということになったのだそうである。結局オガサワラ氏は金を送らなかった。

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「VOW4」(宝島社、92年)を読んでいた私は驚いた。新聞の変な投稿欄についてのコーナーで、こんな短歌が紹介されていたからである。

名も知らぬジャマイカの女より金貸せと手紙来たりぬ舅(ちち)の新盆

                     @ 東京 ○○洋子

紹介者は「コメントなし。」とコメントしていたが、私はおおありであった。おお、ますます怪しさが増してきた!

そして、とどめとなったのが平成5年5月18日の朝日新聞の記事だった。

「内戦で亡命…渡航費用貸して」

海越えて「詐欺レター」

中米で摘発 金持ち日本には170通

「エルサルバドルの内戦で夫を殺され亡命した。スペインに渡航したいが、費用が足りない」。中米のジャマイカから女性名で三万円余りの資金援助を求める国際郵便が、商社員や研究者に届いた。外務省には数十件の問い合わせがあり、調べたところ、手紙の内容は作り話で、日本など九カ国に郵送したとされるグループが今年二月、現地で摘発されていた。海を越えた寸借詐欺と見られるが、手紙を受け取った一人は「貧富の差が背景にあると思うと、何か悲しい」と複雑な思いだ。

外務省によると、手紙は一九九一年中頃から、中南米で仕事をした商社員や現地を調査している研究者に届き、中には送金した人もいた、という。
(中略・手紙の内容について)
一連の手紙について、ジャマイカの捜査当局はICPO(国際刑事警察機構)からの通報をもとに捜査。今年二月中旬、手紙を出したとされる同国在住の五十歳代のパナマ人教会職員ら計六人のグループを詐欺容疑で逮捕した、という。
押収したリストから、日本や東南アジア、欧米など計九カ国の約三百人に手紙を送っていたことがわかった。日本人が約百七十人で最も多く、外務省の関係者は「日本人は金持ちで人がいいと思われたのではないか」という。

このようなわけで、やっぱり「ジャマイカからの手紙」は詐欺だったのであった。

手紙を受け取った一人は「貧富の差が背景にあると思うと、何か悲しい」と複雑な思いだ。

まあ、思うだけならタダである。

【字数指定なし】

53.京都駅の思い出 2003.03.13

JR京都駅は、今は映画でガメラに破壊されるぐらい立派なビルになっているが、昔はぼろかった。そして、行くたびに新しい「出会い」に満ちた場所だった。

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朝京都駅集合で、旅行に出かけたことがあった。私は集合時間よりかなり早く着いてしまったので、花壇の傍でぼんやり立っていた。すると、「えあ?」などという声を発しながらうろうろするおっさんがいた。おっさんは私の方に近づいてくると、なれなれしく話し掛けてきた。ものすごく酒くさかった。

「おにーちゃん、にゅーしゅーずやな」

私の運動靴は買い換えたばかりで、日に当たって真っ白に輝いていた。

「にゅーしゅーずやな」

おっさんはまた言い直すと、私に向かって手を伸ばした。

「百円ちょーだい」

私が百円玉を渡すと、おっさんは花壇の中でいびきをかいて寝始めた。

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何の用事だったのかは忘れたが、やはり京都駅の中央口に集合したことがあった。その時、阪神帽に眼鏡の、口を開けたおっさんが、むき身のバドミントンのラケットを持ってエスカレーターを上ったり降りたりしていた。

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夏、これまた京都駅集合で岡山に行ったとき、改札口の近くに角刈りで目つきの鋭い男がいて、しきりにまわりに向かって呪いの言葉(おそらく)を呟いていた。男のTシャツの背中には黒マジックで「homo - hihi - jap to hell」、肩のところには「予科 5」と書いてあった。

【字数指定なし】

52.猫と変態 2003.03.12

夜、私は下宿の部屋で寝転んでいた。ひどく不安で、といって何をするでもなく、ただ天井の蛍光灯をみつめていた。すると後ろから何やら視線を感じるのである。ふりむくと猫の頭があったのでびっくりした。まぼろしかと思ったが、さわったら温かかったし、ちゃんと胴体もあったので安心した。猫をおしだして廊下に出ると、廊下の窓にはたくさんの走り回っている猫の影が映っていた。

その日はやたらと暑苦しい日で、しきりに汗が出た。私は午前四時ごろのどの渇きのために目を覚ました。眠れないので、外に飲み物を買いに出た。晴れているのに、しきりに空のあちこちがぴかぴか光っていた。音はなかった。なまぬるい風が吹いて、冷や汗が流れた。

自転車の所でなにか動いたので驚いた。よくみるとそれは人間で、何だかぐにゃぐにゃした動きをして植え込みのほうにかがみこみ「う〜」などという声を発していた。酔っぱらいか、と思ってそのまま自転車で横を通り過ぎた。

ジュースを二本飲んで帰ってくると、今度は近所の家の塀の所で何か黒いものが動いた。さっきの人間である。男が塀にへばりついて中をうかがっているのだ。朝の四時に人の家を覗いて何が面白いのだろうか。そう思って見つめた私の目が男の目と合った。生気のない、おどおどした目で男は

じいっ

と私の目を見つめつづけるのだった。私は薄気味悪くなって、逃げるように部屋に帰った。なぜか影絵の人間のイメージがいくつも頭に浮かんだ。眠ってからも、気持ちの悪い夢ばかり見た。

【字数指定なし】

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【参考】「500文字の心臓」http://www.asahi-net.or.jp/~nv5y-mngs/magazine/ 第24回投稿 上の話の後半を元に書き直したもの。

春の忍者

春の夜だった。その日は妙に寝苦しい日で、むやみにのどが乾いた。私は起き上がって、外に飲み物を買いに行くことにした。外に出ると、空のあちこちがピカピカと光っているのが見えた。稲光のようだったが、音はなかった。なんだか現実味のない光景だった。
 生ぬるい風が吹き、汗がじとじと流れた。
 自転車置き場の横の植え込みに、人がかがみこんでいたのでびっくりした。中年の黒っぽい服を着た男で、「うー」などという声を発していた。酔っ払いか、とそのときは納得し、自転車を押して出かけた。
 自販機でジュースを二本飲み、帰ってくると、隣の家のブロック塀に黒い人影があったので、またひどく驚いた。
 男は塀に取り付き、中の様子をうかがっていた。よく見ると、さっき植え込みにいた男である。男も私に気づき、私と目をあわせた。私が完全に通り過ぎて目をそらすまで、男はじっとりした視線で影の中からこちらを見つめつづけた。二人とも一言も発しなかった。
 短い時間のはずが、ひどく長く感じられた。朝の4時に真っ暗な他人の家を覗いて、何が楽しいのだろう。わからなかった。ただ薄気味悪かった。再び眠ってから、なぜか影絵の人が大勢出てくる夢をみた。

【500字】

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同選評掲示板に寄せられた感想

  1. 妖しい世界観が好きです。

  2. なんだか読む度にゾッとします。好みが別れるところでしょうか。

  3. わたしには、いちばん、何を書こうとしてはるのか意図が とりにくかった作品でした。作品に対する感想より、 長かったなぁという印象のほうが先にきてしまったので、 逆選に。

  4. 最後の段にちょっと感情が入りすぎたかも。 坦々とした事実のみを記述した方が良かったように思います。

  5. 「春の忍者」というタイトルなのに「春の夜だった」はあまりにもくどいのではないでしょうか.一行目からイメージが限定されてしまった感じがあります.その後の内田百けん風の展開は好みなのですが.

【結果】選外

○正選、1点 △次点、1点 ×逆選、1点

51.地震を起こす男 2003.03.11

大学受験のとき、壁に「BUSH」という謎の大きなメッセージや、なんだかよくわからない主張をぎっしり書いたコピー紙が貼られているのを見た。そのときは、「今はよくわからないが、大学生になったらここに書いてある意味もわかるようになるんだろう」と、漠然と思っていた。

その大学に入学してからも、それらのものは気になりつづけていた。平成6年ごろ、「彼」の主張を何とか理解しようと、ビラを何十枚もはがしたり写真をとって採集してみたことがある。たとえば次のようなものである。

【ビラの端の私のメモ】H6/10/5 A号館にてまだ糊が乾いていないものを採集。この前日中日ドラゴンズが負け、釧路で地震があった。

女がのさばると天がおこる.

つまり、読売がうれしがると、地震や天が怒る傾向が非常に強い.

ドラゴンズが負けると、まづ読売がうれしがる.そして、くそclintonがのさばる。そうするとNHKが女勝せ的報道をする。そうなった場合どういうわけか知らないが、地震がおこったり噴火したり、天がおこる傾向が、強い。





       連立8党は朝日でも読売でもない、聖教新聞を中核とする。

ここでは短いものを引用したが、普通はもっと長い。しかし内容は似たり寄ったりである。基本的に支離滅裂なのでよくわからないが、どうもテレビとアメリカと政治と野球と天災と宇宙には深い関係があると主張しているらしい。当時のそのビラの主張を思い切って簡略に表現すると、以下のようなことらしかった。

「NHKと読売が『いい気になって』いるため、『戦勝国アメリカ』が『怒り』、天災が起きるのだ。」

誰がこのビラを貼っているのかは最後までわからなかったが、とにかく一ヶ月に一枚ぐらい新しいものが出た。

私はこの人物と意思の疎通をしたことがある。私以前にすでに誰かが、ビラに意見を書くことによって「彼」と問答していた。「彼」は自分がビラを貼った場所を巡回して、下の方のすき間に手書きで主張を追加することが多かった。(上の引用の場合、まだ貼りたての新しいものだったので何も書かれていない。)その際に意見や質問にも答えてくれたのである。私が見たのはこのようなものだった。

彼「くそクリントンよ女なぐり倒し金出せよ」

相手「なぐられるのはお前だ!」

彼「おまえら天を動かせるのか、地震や台風をContloleできるのか.天に勝てるのか!」

相手「こんなこときくお前は、じゃあ、台風や地震をContloleできるのか、答えてみろ!」

彼「この前あったじゃないか/私が起こしたのじゃよ」(注:これは平成6年の10月の話で、この頃北海道で大きな地震があった)

相手「本当か?じゃあ10月中にもう一回起こしてみろ!」

彼(返答なし)

相手「嘘つき!」

当時「彼」の調査をしていた私とT君は、この問答を見て面白がり、同じように何か書くことにした。

彼「我々は偉大だケイサツは我々の命令下に入れ」

「地震はどうなった?10月中に起こらなかったぞ」

「何が偉大だ?!そもそも我々とは誰だ?!」

それぞれ次のような回答があった。

「10月31日にアメリカで異常気象で飛行機落ちた、エジプトでも洪水が」

「我々は割々だ」(意味不明)

阪神大震災でひどい目にあった時は「彼」のせいかと思ったが、どうもそうではなかったらしい。あの事件に対する「彼」のコメントはこうである。

「そもそも天を動かすことができる者はいるのだろうか、私は知らない」

動かせるのではなかったのか?

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先日数年ぶりに母校を訪ねたところ、あいかわらず「彼」は新作を発表しつづけていた。なんだかとても懐かしかった。

【字数指定なし】

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